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「いのちの法話会」ネルケ無方師の法話抄録を掲載いたします

2015.10.23

ネルケ無方浄土真宗本願寺派の淨泉寺に曹洞宗のネルケ無方さんをお招きし、10月3日に第4回「いのちの法話会」を開きました。以下はその抄録です。

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(左写真 ご法話されるネルケ無方師)

仏教とはどのような教えかをご一緒に考えてみたいと思います。仏教には三つの側面があるように思います。

第一に「私が仏になる」という側面です。釈尊が説かれた教えに、この言葉が最も近いと思います。私という人間がいかに生き、いかに死ぬべきか、この苦しみからいかにして解き放たれるか。釈尊は二千五百年前に気づき、実践し、仏になられました。釈尊は以来四十五年間にわたり、インド各地を巡って教えを説きました。釈尊の姿はしばしば医者にたとえられますが、医者は病者を診て処方箋を出すことはできても、薬を飲むのは私であり、薬を飲むか飲まないか、そしてリハビリをするかどうかは私次第です。釈尊は実物の見本であって、救世主ではありません。そこがキリスト教との実に大きな違いです。これだけが仏教の教えだという人もいますが、私はそうは思いません。凡夫が仏になるために三阿僧祇劫あそうぎこうという長い時間が必要。阿僧祇劫とは時間の単位です。一㎞ 四方の巨岩があって百年に一度、天女が舞い降り羽衣の袖でその岩をやさしく撫でる。それを繰り返すことで長い時間をかけて岩がすり減って無くなるまでの時間がひとつの阿僧祇劫で、それが三つもある。

 

第二は無我の教えです。無我を説きながら、釈尊はその一方で涅槃に入られて、お弟子をみんなを置いていった。そのため後に興った大乗仏教、とくに浄土教では法蔵菩薩を軸に、助けを求めるすべての人をすくいたいという願いを立てるという経典が現れました。そこには自分一人では仏にならない、みんなを救いたいというメッセージが強く表れています。それが日本で浄土宗、浄土真宗となって広まっています。法華経では釈尊は本当は死んでいない、芝居だったんだと説いています。死んではおらず、目に見えないが私たちを見守ってくださっている。浄土教では自分と言うものを手放してこそ、阿弥陀如来が救ってくださるとあります。本日午前中に坐禅会をいたしました。最初は誰しも、「自分が頑張って坐禅をするんだ」と意気込みますが、ある時から「わたしが坐禅をする」という意識から「坐禅がわたしをする」という意識へ転ぜられる。大いなる力に抱かれて、坐禅をさせていただいていると気づく瞬間があります。他力のようなものへの気づきが、坐禅のなかにもあるのです。これは一人称の仏教ではなく、いわば二人称の仏教といえます。あちらからやってくる他者と、自分とで成り立つ。浄土真宗の念仏を私たち禅宗では唱えませんが、それは永遠の存在そのものの名です

 

三人称の仏教もあると思います。道元禅師の晩年の和歌にこうあります。

 

おろかなる吾れは仏けにならずとも 衆生を渡す 僧の身なれば(『傘松道詠』)

 

自らの愚を嘆き、私がたとえ仏になることができずとも、人々が救われてさえくれればそれで僧の勤めを果たすことができる。自分は最後でいいと。他者の救済をまず優先する菩薩道です。いま挙げた三者はいずれも根っこは同じです。

 

自然法爾をどう考えるかというご質問がありました。これは親鸞聖人がおっしゃる言葉で、阿弥陀如来というわたしを超えた大きなはたらき、この大きなはたらきに任せて生きるということです。自分の力で頑張るという考え方とは対極の、自ずから然らしむ、自ずとはたらくものに任せる。道元禅師のお言葉にこうあります。

 

ただわが身をも  心をもはなちわすれて、

仏のいへになげいれて、

仏のかたよりおこなはれて、

これにしたがひもてゆくとき、

ちからをもいれず、こころをもつひやさずして、

生死をはなれ、仏となる( 『正法眼蔵』)

 

このお言葉は親鸞聖人のお考えに非常に近いと思います。自分を手放してこそ、「仏のかたより」、つまり向こうから力をいただくことができ、仏となる。蓮如上人の御文章にも「仏のかたより往生は治定」とありますね。この力が自分を通してはたらく。クヨクヨする自分を手放して、阿弥陀如来の力が私を通してはたらく。これがまさに自然法爾ではないかと思います。一般に道元は自力、法然と親鸞は他力と言われますが、そうではないと私は思います。坐禅においても、日々の生活においても、私を投げ出し、向こうから帰ってくる力をいただいて、生かされて生きる、あれだけ遠かった仏は実は自分の後ろにいた、自分の後ろを押してくれていたという気づきにつながるのです。(談)


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