浄泉寺開山式によせて

先日、木の建物の普及促進を顕彰するための「第11回木の建築賞」の客員選考委員として、第一次審査に参加しました。寄せられた約60作品には、幼稚園、保育園などの教育施設などの新築物件に加えて、古民家改修の作品も複数見られました。過去の状況はわかりませんが、古民家や蔵の解体移築、改修の作品は、これからますます増えていくことが予想されます。

日本では、建物の寿命が30年ぐらいでしょうか。作っては壊すという考え方が主流でした。経済が成長していた時代は良かったかもしれません。何でも壊して捨てるという文化が成り立ってしまったようです。それが、低成長時代に移行した現在においても、相変わらず続いています。多くの人が、この建物はあと何年ぐらい使えるのか?わからないまま使用しています。材料を組み合わせるということは、その中で一番耐久性の短い材料に、全体の耐久性能が制限されるということを理解していかなければなりません。

この度ご縁あって、淨泉寺の庫裡、本堂改修工事のお手伝いをさせていただきました。この古民家は、110年ほど前に、埼玉県飯能市に建てられた、茅葺きの養蚕農家だったとのこと。柱や梁などは、良質な赤味のケヤキで作られています。先代の所有者は、偶然、この建物が壊されてゴミになることを知り、解体される直前にこの建物を引き取り、ここ吉見に移築して、原型に近く再生することを10年ほど前に始められました。

この建物はしかし、事情あって先代の所有者の手から離れましたが、運命の導きとして、このたび、淨泉寺本堂としての命を吹き込まれるにいたりました。内部の造作材をよくみますと、チョウナの掛かった材や、素晴らしい建具がたくさんあります。材料から判断するならば、江戸時代にまで遡る可能性があります。つまり飯能に養蚕農家として建てられた時点で、それ以前の建物の部材を転用した可能性があるということです。学生と一緒に梁の汚れをおとし、古色に塗って磨くと、新品の姿によみがえりました。今回の改修で高橋棟梁によって新たに据えられた柱や床材がその仲間入りをし、さらに金柱や虹梁など仏具一式は富山(旧紫雲寺様)から移築されました。金の柱は多少長さの調節をしたものの、虹梁はそのままピッタリはまりました。日本の木造建築の寸法体系の素晴らしさに目を瞠るとともに、それら部材が時間と空間を越えて、この吉見の地に生きることを待ち望んでいたとしか考えられません。さらに、倉庫に放置してあった繊細な欄間飾り、大小の建具を再利用、転用利用することによって、歴史を継承することに配慮しました。

木に触れると、木は手の温かみを吸い取り、それを手に返してくれるし、香りを放ちます。つまり人とコミュニケーションするのです。良質な素材に接することで、自分が自然の一部であるという喜びを感じるはずです。バウビオロギー(建築生物学)の大切な使命の一つは、包括的なかたちで人間の諸感覚に呼びかけることです。

「全ての室内が均一の温度を保ち、すべての窓が閉じたままで、木々を飛びまわる小鳥のさえずりがもはや聞けないとしたら、省エネ住宅は一体何の役に立つのか」(ホルガ―・ケーニッヒ)

材料のみならず、色彩や形状なども人間の五感に働きかける。そのことを終始意識しておりました。本堂も、またそこに生きる人々も、共に成長・発展していくことでしょう。そこに関与することが許されたことに感謝いたします。

平成27年9月5日

石川恒夫

前橋工科大学教授

ビオ・ハウス・ジャパン一級建築士事務所

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